
100mスプリンター・井上直紀のプロフィールと経歴
井上直紀とは?基本的なプロフィール
井上直紀選手は、早稲田大学に所属する日本のトップ短距離ランナーです。2025年現在、早稲田大学競走部の111代目主将を務めており、日本スプリント界のニューフェイスとして大きな注目を集めています。
特に男子100メートルを専門とし、その将来性と目標タイムは多くの陸上ファンから期待されています。群馬県高崎高校出身であり、地元群馬県での陸上競技大会でも活躍しています。
中学・高校時代の主要な成績と転機
井上直紀選手の陸上競技における大きな転機の一つは、群馬南中学校3年だった2018年に岡山市のJFE晴れの国スタジアムで行われた全日本中学校選手権の100メートルでの優勝でした。
井上直紀さん自身が「ここで日本一を取って人生が変わった」と振り返るように、この優勝がその後の陸上人生に大きな影響を与えました。高校は高崎高校に進学し、ここでも陸上競技に打ち込み、早稲田大学へと進む礎を築きました。
早稲田大学での活躍と日本学生対校選手権での成績
早稲田大学に進学後、井上直紀選手は着実に実力を伸ばしました。2025年5月5日に行われた日本学生対校選手権では、男子100メートル予選で3.1メートルの向かい風という悪条件ながら10秒55の5組1着で準決勝に進出しました。
また、同大会はワールドユニバーシティゲームズの代表選考会も兼ねており、井上直紀選手は準決勝で自己ベストを更新し、10秒30というタイムでユニバ派遣標準をクリアしました。
決勝ではさらに自己ベストを更新する10秒19をマークし、学生個人選手権で優勝を飾りました。この優勝は、学生陸上界の頂点に立ったことを示し、彼の存在感を強く印象付けました。
これまでの自己ベストと今後の目標タイム
井上直紀選手の現在の自己ベストは、2025年4月29日に織田幹雄記念国際陸上で記録した10秒12です。この記録は追い風0.4メートルの条件下で達成されたもので、5人の選手が0.03秒差の中にひしめく大接戦を制しての優勝でした。また、同年のセイコーゴールデングランプリのチャレンジレースでは、自己タイの10秒12をマークしています。井上直紀選手は「世界陸上を狙って試合に出れば9秒台は付いてくる」と語っており、世界陸上の参加標準記録である10秒00の突破、そして将来的には9秒台の記録を目標に掲げています。同世代の栁田大輝選手(東洋大)とともに、9秒台を期待される有力候補の一人として注目されています。
井上直紀選手の走り方と身体的特徴
井上直紀選手のストライドとは?
井上直紀選手の特徴の一つに、その大きなストライドがあります。ストライドとは、一歩で進む距離のことで、井上直紀選手は昨年までのデータで100メートルをわずか44歩で走り切っていました。
早稲田大学の大前祐介監督によると、井上直紀選手の平均ストライドは227センチメートルであり、身長171センチメートルに対して身長比133パーセントという驚異的な数値を示しています。この130パーセントを超えるストライドは、人間の限界値に近いとされています。
身長とストライドの関係性
井上直紀選手の身長171センチメートルという、男子100メートル選手としては決して大柄ではない体格で、身長比133パーセントという大きなストライドを実現している点は特筆すべきです。この大きなストライドが、井上直紀選手の最大の武器となっています。
大前監督は、このストライドを活かしつつ、さらに脚を回す(ピッチを高める)ことが次の課題であり、それが実現すれば9秒台は自ずと出るだろうと分析しています。
加速・ピッチ改善のためのトレーニング内容
大きなストライドを持つ井上直紀選手が、さらに高いレベルを目指すために取り組んでいるのが、ピッチの改善です。
具体的には、冬期練習で「遊脚を戻すスピード」の強化に力を入れています。これは、地面を蹴った脚が身体を追い越して行くスピードを速くする取り組みであり、スキップやバウンディングといったメニューを意識的に行っています。この成果として、60メートルのスキップタイムが昨年までの8秒3~4から、今年は7秒7へと大幅に向上しました。
また、大学入学後に積極的に取り組んできたウエイトトレーニングも、記録向上に貢献しています。重さを少し増やしながら、昨年よりも速く上げていくことを意識しており、これらのトレーニングが現在の井上直紀選手の走りを支えています。
9秒台達成に向けた課題と可能性
井上直紀選手は、織田幹雄記念国際陸上で自己新記録の10秒12をマークしましたが、更新幅はわずか0.01秒でした。本人はこの記録を「物足りない」と認識しており、トレーニング内容からもまだまだ記録を伸ばせる手応えを感じているようです。
ストライドの大きさという強みを最大限に活かしつつ、ピッチの向上という課題を克服できれば、9秒台という大台に乗せる可能性は十分にあります。特にレース後半の強さは彼の持ち味であり、スタートから中盤の加速がさらに磨かれれば、目標達成はより現実的になるでしょう。
井上直紀選手の主な出場大会と成績
織田幹雄記念国際陸上での優勝と自己ベスト更新
井上直紀選手は、2025年4月29日に広島市の広島広域公園陸上競技場で開催された「織田幹雄記念国際大会」において、男子100メートルで10秒12(追い風0.4メートル)の記録で優勝しました。
この大会は日本グランプリ大会であり、井上直紀選手にとって初の優勝となりました。2位の樋口陸人選手(スズキ)とは0秒02差、3位の桐生祥秀選手(日本生命)とは0秒03差という大接戦を制しての自己ベスト更新でした。
井上直紀選手は、この大会が早稲田大学の先輩である織田幹雄氏を記念した大会であることにも触れ、「ここで勝てたことはうれしい」と語っています。
日本選手権での成績と決勝進出
2025年7月4日から東京都の国立競技場で行われた世界選手権東京大会の代表選考会を兼ねた日本選手権において、井上直紀選手は男子100メートル準決勝で10秒22をマークし、2組1着で5日の決勝に進出しました。この結果は、彼が国内トップレベルの選手と肩を並べる実力を持っていることを示しています。
決勝では7レーンに入り、日本一の座を目指しました。
セイコーゴールデングランプリでのレース結果と評価
2025年5月18日に東京の国立競技場で行われたセイコーゴールデングランプリでは、男子100メートルで栁田大輝選手(東洋大)が10秒06で優勝する中、井上直紀選手は桐生祥秀選手(日本生命)と10秒16で並び、着差で4位に入賞しました。
この大会のチャレンジレースでは、自己タイの10秒12(追い風1.1メートル)をマークし、中盤からの伸びやかな加速で全体トップのタイムを出しました。決勝では「前半、身体を起こすのがちょっと早かった」と反省点も挙げましたが、今季の織田記念優勝など、日本最速の争いに食い込みつつある実力を示しました。
世界リレーでの貢献と決勝進出
2025年5月に中国・広州で開催された世界リレーにおいて、井上直紀選手は男子4×100メートルリレーの日本代表として選出されました。5月10日の予選では今季世界最高タイ記録の37秒84をマークし、日本チームはアンカーを務めた井上直紀選手の走りもあって決勝に進出しました。
決勝のオーダーではアンカーを務め、日本チームの4位入賞に貢献しました。この経験は、国際舞台での実績を積み重ねる上で貴重なものとなりました。
井上直紀選手と「東京2025世界陸上」
東京世界陸上への意気込みと代表選考
井上直紀選手は、2025年に東京で開催される世界陸上に対して強い意欲を見せています。彼は「地元で、大学4年の節目で迎える大会。絶対に代表になる」と力強く宣言しています。世界陸上に出場するために、ワールドユニバーシティゲームズの選考会よりも世界陸上の選考に関わるポイントが高い織田記念を優先するなど、強い覚悟を持って大会に臨んでいます。
彼のメンタルは「世界陸上に出場するか、(今季の代表入りは)なしか、という腹のくくり方をしてきました」という言葉にも表れており、まさに世界陸上出場を唯一の目標としています。
世界リレーでの経験とリレーへの貢献
井上直紀選手は、個人種目よりも先に4×100メートルリレーの日本代表入りを果たしました。日本は開催国枠でのエントリーにより東京2025世界陸上の出場権をすでに得ていますが、世界リレーでの成績次第で走りやすいレーンでの出場が可能になります。
早稲田大学での経験が、リレーに対する彼の自信に繋がっています。
彼は「求められればどこでも走りますが、昨年は早稲田が日本選手権リレー、日本インカレ、関東インカレと4×100メートルリレーの3冠を達成しましたし、国民スポーツ大会も群馬県が優勝しました。そのすべてアンカーを走っているので、4走、直線で持ち味を出せると思います」と語っており、リレー種目での貢献にも意欲的です。
世界陸上出場に向けた今後の戦略
井上直紀選手の世界陸上出場に向けた戦略は明確です。彼は「東京世界陸上だけを狙っています」と公言しており、そのために記録よりも「勝つこと」に重点を置いています。織田記念で優勝した際も「今日は勝つために来ました。目標が達成できてうれしいです」と語っています。
また、「速い選手たちと走ることが楽しいし、そういうところで勝つことが一番の醍醐味です。記録は今後、世界陸上を狙うために試合のレベルが上がったら、自ずと9秒台も付いてきます」と考えており、世界陸上の舞台で戦うことが、自己記録更新に繋がると信じています。セイコーゴールデングランプリでの反省点を活かし、さらなるスピードアップとレース運びの改善に取り組むことで、世界陸上への切符を掴むことを目指します。
早稲田大学競走部主将としての井上直紀
111代目主将としての「One早稲田」とは?
井上直紀選手は、早稲田大学競走部の111代目主将という大役を任されており、その責任感から「その名に恥じぬ振る舞いで、競走部を牽引していきたい」と語っています。
111代目のスローガンは「One早稲田」です。
このスローガンには二つの意味が込められています。一つは、短距離、長距離、男子、女子が一丸となり、対校戦や三大駅伝を戦うこと。もう一つは、1が並ぶ「111代目」という代で、学生陸上界の覇者となりトップを獲るという強い目標です。
この「One早稲田」は、選手だけでなく、出場できない選手や、選手を支えるスタッフも含め、境遇は違えど「臙脂(早稲田のスクールカラー)への憧れ、誇り」という同じ方向を向き、総合優勝や三大駅伝制覇を目指すという、チーム全体の結束を意味しています。
早稲田愛と先輩たちへの感謝
井上直紀選手は、織田記念優勝の感想を求められた際に、「テレビで見ていた桐生祥秀さんたち先輩と走って光栄でしたし、この大会は早稲田の織田幹雄先輩を記念した大会でもあるので、ここで勝てたことはうれしい」と語るなど、強い「早稲田愛」を感じさせるコメントが多く見られます。
彼の早稲田愛は、先輩たちの存在が自身の成長に繋がったと感じているからです。「早稲田の先輩たちと練習して競技力が高まりました。OBの皆さんから(一緒に練習した)先輩たちへと、伝統が受け継がれてきたことに感謝したい」と述べており、200メートルU20日本記録保持者の大前祐介監督や、2012年ロンドン五輪代表で現大阪ガスコーチの江里口匡史さんといったOBに肩を並べたいという目標も持っています。
主将としての責任感とチームへの思い
主将としての井上直紀選手は、チームを引っ張る強い責任感を持っています。日本学生個人選手権や5月の関東インカレを欠場して織田記念に出る決断をしたことについて、「しっかり勝たないと示しがつきません。主将としてそういう気持ちがありました」と語るなど、自身の行動がチームに与える影響を常に意識しています。
前主将である池田海さんからバトンを受け継ぎ、井上直紀選手は「我々後輩で臙脂の価値をより高めていきたい」と意気込んでいます。彼が目指すのは、個人成績だけでなく、チーム全体で勝利を追求し、早稲田大学競走部の歴史と伝統を次世代に繋いでいくことです。
池田海前主将から受け継いだもの
井上直紀選手は、110代目主将を務めた池田海さんから多くのものを受け継いだと感じています。池田海さんが怪我を抱えながらも復帰に向けて地道に取り組む姿は、後輩一人一人の目に焼き付いており、それがチーム全体の士気を高めていたと振り返ります。
井上直紀選手は、「海さんのため。チーム一丸となり池田海主将が作った110代目の一員として闘えたことが私の誇りです」と語り、池田海さんが言葉や行動だけでなく、その人柄でチームを牽引したことに敬意を表しています。今後は「世界を目指す同志として切磋琢磨し合いましょう」と、先輩への感謝と今後の関係性への期待を示しています。
井上直紀選手の人間性と思考
陸上競技を続ける意味とは?
井上直紀選手は、陸上競技を続けることの意味について、深い洞察を持っています。先日出場した国民スポーツ大会での経験が、彼にその意味を再認識させました。
アクシデントで100メートルへの出場を断念したにも関わらず、4×100メートルリレーで優勝し、その際に少年選手から「国スポに井上さんと一緒に出られるのがすごく嬉しかったです。100メートルは見たかったけど、足が痛くても走ってくれて、僕それだけでほんとにうれしいです。出てくれてホントにありがとうございます。」という言葉をかけられました。
この言葉を聞いて、井上直紀選手は「私の陸上をやる意味ってこれなんだなと感じました。私が走ることで、誰かが喜んでくれる。誰かが応援してくれているから走れている。改めて大切なことに気づかされました」と述べています。
レース中のメンタルと「力まない走り」
井上直紀選手の強みの一つに、レース中の優れたメンタルがあります。彼は「前に出られる展開には慣れているので、リードされてもまったく気になりません。レース中に力んだことはあまりないんです」と語っています。これは、彼が自身の走りに自信を持ち、どのような状況でも冷静さを保てる証拠です。
この「力まない走り」が、後半の伸びやかな加速と、安定したレース運びを可能にしています。セイコーゴールデングランプリ決勝では、スタートからの流れで「外国勢や栁田大輝選手が見えていたので……もうその差ですね」と、自分の走りに集中しきれなかったことを課題に挙げていますが、このメンタル面での強さは、今後さらに大舞台で活かされるでしょう。
記録に対する考え方と「試合は運動会の徒競走」
井上直紀選手は、記録に対する独特の考え方を持っています。彼は10秒12という自己ベストをマークしても「記録的には物足りない」と自覚している一方で、「試合は運動会の徒競走のようなもの」という信念を抱いています。
「速い選手たちと走ることが楽しいし、そういうところで勝つことが一番の醍醐味です。記録は今後、世界陸上を狙うために試合のレベルが上がったら、自ずと9秒台も付いてきます」と語るように、彼は記録を追うよりも、トップレベルの選手たちと競い、勝利することに喜びを感じています。この競争を楽しむ姿勢が、彼の成長を加速させていると言えるでしょう。
国民スポーツ大会での経験と少年選手からの言葉
国民スポーツ大会での経験は、井上直紀選手の陸上競技への向き合い方を深めました。群馬県代表として5年ぶりに選ばれたこの大会で、彼は競走部とは異なる環境で陸上競技に取り組みました。
怪我により個人種目出場を断念するアクシデントがありましたが、リレーでの優勝と、それ以上に少年選手からの感謝の言葉が、彼に大きな感動と気づきを与えました。
「今日頑張ったからと言って何かが良くなっていることも少ない。それでも今日を大切に復帰だけを見て取り組んでいた」池田海さんの姿を見ていたことも、この時の彼の気持ちに影響を与えているかもしれません。多くの人に支えられていることを様々な場面で感じると語る井上直紀選手は、「感謝を忘れず、結果で恩返ししていきたい」という強い気持ちを持って、今後の競技生活に臨んでいます。