
大会日程と開催地
第109回日本陸上競技選手権大会(陸上日本選手権)が 2025年7月4日(金)から7月6日(日) にかけて開催されます。舞台は東京・国立競技場で、同会場で9月に控える世界陸上(東京大会)の代表選手選考会も兼ねて行われます。
日本選手権が国立競技場で開催されるのは新スタジアムでは初めてで、実に20年ぶりの国立開催となります。夏の大舞台を目前に控え、最高の環境で国内トップ選手たちが日本一と世界大会出場権を懸けて競い合います。
世界陸上東京への代表選考ルール
今回の日本選手権は、2025年9月に東京で開催される世界陸上競技選手権(世界陸上2025)の日本代表選考会を兼ねています。
男子400mでは世界陸上の参加標準記録(参加資格タイム)は44秒85に設定されています。選考ルールとして、この標準記録を突破している選手が日本選手権で3位以内に入ればその場で代表内定となります。
標準記録を満たしていない場合でも、日本選手権で3位以内に入った選手は世界陸上の出場枠(男子400mは各国3名まで、全体で48名)における世界ランキング(Road to Tokyo 2025)次第で代表に選ばれる可能性があります。世界ランキングの最終締切は8月末で、それまでに対象選手が48位以内に入れば代表選出となります。
つまり、選手たちにとって日本選手権で重要なのは順位とタイムの両方です。標準記録を突破して表彰台に立てば即代表決定、届かなくても上位入賞で世界陸上出場への望みが繋がるため、各選手ともベストパフォーマンスで挑んでくるでしょう。
男子400mの注目選手たち
男子400mには、世界大会出場が期待されるトップスプリンターたちが集結します。近年の日本男子400mは記録的にも飛躍を見せており、2023年には佐藤拳太郎が32年ぶりに日本記録を更新するなど大きな進展がありました。
さらに2024年パリ五輪の男子4×400mリレーでは、日本チーム(佐藤拳太郎・佐藤風雅・中島佑気ジョセフら)が2分58秒33のアジア新記録(日本新)を樹立して堂々の6位入賞を果たし、世界に通用する走りを見せています。こうした背景を踏まえ、今大会の男子400mでも代表争いと記録更新に絡む注目選手を挙げてみましょう。
佐藤拳太郎(富士通)
男子400m日本記録保持者(自己記録44秒77)で、日本短距離界のエース的存在。リオ五輪2016・東京五輪2020日本代表など国際経験も豊富で、2015年北京から世界選手権にも4大会出場しています。
昨年の世界選手権(ブダペスト)予選で日本新記録となる44秒77をマークし、32年間破られなかった記録を0.01秒更新しました。勝負強さと安定感が光る29歳で、代表内定には自身の記録更新=44秒85の突破を視野に入れて臨むはずです。
ウォルシュ・ジュリアン(富士通)
2016年リオ五輪と2020年東京五輪に出場した経験を持つ、国際舞台を知るベテランスプリンター。自己ベストは45秒13(2019年)で、日本歴代7位という高い水準の記録を持っています。
近年は表舞台から遠ざかっていましたが、かつて2019年ドーハ世界選手権では400mで日本選手として久々の準決勝進出を果たした実力者。豊富な経験値を武器に、再び国内トップ争いに食い込んで世界大会切符を狙います。
佐藤風雅(ミズノ)
昨年のパリ五輪男子1600mリレーで44秒88(日本歴代3位)という驚異的なラップを記録した新鋭スプリンター。東京五輪ではマイルリレー日本代表として活躍し、近年著しい成長を見せています。
自己ベストの44秒88は佐藤拳太郎の日本記録にも肉薄するタイムで、一躍「400m日本新記録」の有力候補に躍り出ました。勢いに乗る24歳(推定)で、今回は個人種目のタイトルと代表権獲得を虎視眈々と狙います。
中島佑気ジョセフ(富士通)
4×400mリレー日本代表の1走を務めた実力者で、自己ベスト45秒04は日本歴代5位に相当します。2019年にこの記録を出して以降、大舞台での経験も積んできました。昨季は故障もあり今季まだレース出場がなく、世界陸上の出場権をランキングで得るのは難しい状況です。
しかし逆に言えば標準記録44秒85の突破さえ達成できれば代表入りの可能性が開けるため、一発勝負にかける覚悟で臨むでしょう。
日本記録保持者の佐藤拳太郎に対し、若い佐藤風雅や中島佑気ジョセフがどこまで肉薄できるかが見どころです。ウォルシュ・ジュリアンも含め、国際経験豊富な選手同士のハイレベルな戦いとなることは間違いなく、観戦するファンにとっても目が離せないレースとなるでしょう。
レース展開の予想とポイント
今年の男子400mはハイレベルな接戦が予想されます。エントリー記録上は45秒台前半に4人がひしめく状態で、自己ベストで見ても44秒台(44.77〜44.88)から45秒台前半(〜45.28)に収まる選手が複数います。
実績上抜けた存在の佐藤拳太郎が本命視されますが、絶対的な優勝候補と断言できないほど、他の有力選手との差は僅かです。レース序盤から各選手が積極的に飛ばし、300m付近までに先頭に立つ展開が考えられます。最後の直線ではスタミナと根性勝負。佐藤拳太郎の強じんな粘りに、佐藤風雅の勢い、中島やウォルシュの経験値がどう挑むかが勝負のポイントです。
タイム面では、日本記録更新の可能性にも期待がかかります。パリ五輪入賞メンバーである実力者同士が競り合うことで「日本新記録」のアナウンスが聞けるかもしれません。実際、本大会の男子400mは日本陸連も「日本新が出るかもしれない種目」の一つに挙げており、記録的にも大きな注目を集めています。44秒85という世界大会参加標準も、日本新=44秒77の更新で自動的にクリアされます。選手たちにとっては優勝と共にこのタイムが一つの目標ラインとなるでしょう。
代表選考という観点では、表彰台(3位以内)に入ることがまず不可欠です。特に佐藤拳太郎は現時点で世界ランキング上は出場枠の圏外に僅かにいるため、優勝してポイントを獲得すれば代表圏内に滑り込める見込みです。佐藤風雅もランキング圏内ギリギリの状況で、自己記録更新=標準突破で文句なしの代表入りを狙いたいところ。中島佑気ジョセフやウォルシュら他の選手も、優勝あるいは44秒台前半のタイムを出せば一気に代表争いに浮上してきます。
まさに「世界陸上への切符」を懸けたスリリングな戦いとなりそうです。
今大会が日本陸上界にもたらす意味
今回の日本選手権男子400mは、単なる国内タイトル争いに留まらず、日本陸上界全体にとって大きな意味を持つレースです。
まず、世界陸上と同じ国立競技場で開催されることで、選手にとっては本番さながらの雰囲気とトラックを事前に経験できる貴重な機会となります。ホームで開催される世界大会に向け、「あの国立で走りたい」というモチベーションは選手たちの大きな原動力でしょう。観客にとっても、日本最高峰の戦いを五輪・世界大会仕様のスタジアムで観戦できるまたとないチャンスであり、大会を盛り上げる要因となっています。
記録面でも、日本男子400m界の現在地と展望を示す重要なレースです。前述の通り、長年停滞していた日本記録が更新され、44秒台前半に到達する選手が現れたことで、日本の400mは新たな段階に突入しました。この日本選手権でさらに記録が塗り替えられれば、日本勢が世界の舞台で戦う上で大きな自信となり、さらなる競技力向上に弾みがつくでしょう。「日本新記録」のアナウンスが聞ける可能性がある種目として日本陸連も期待を寄せており、ファンからの注目度も高まっています。
また、昨年のパリ五輪リレー入賞は日本の400m界に明るい希望をもたらしましたが、個人種目での世界大会進出・活躍はこれからの課題です。世界陸上東京大会で男子400mの日本勢が準決勝、さらには決勝に進出すれば史上初の快挙となります。今回の日本選手権は、その夢に向けた第一関門です。
日本一と世界への切符を勝ち取った選手が、その後の世界陸上で地元の大声援を受けながら躍動する——そんな未来を想像させる熱いドラマが、この日本選手権男子400mには待っているかもしれません。国内トップ選手たちのプライドと夢を懸けた激闘に、ぜひ注目しましょう。