【男子5000m】東京世界陸上2025徹底ガイド

【男子5000m】東京世界陸上2025徹底ガイド

男子5000mは、標準的な400mトラックを12周半する長距離種目です。エリートレベルでは約14分間、一貫した高速ペースで走り続ける必要があり、選手には極めて高い身体能力と精神力が求められます 。  

東京世界陸上2025における男子5000mの競技日程は以下の通りです。

  • 予選: 2025年9月19日(金) 20:05 (日本時間)
  • 決勝: 2025年9月21日(日) 19:50 (日本時間)

 東京2025の男子5000mは、日本選手にとって単なる競技以上の意味を持ちます。ホーム開催という「追い風」は、彼らのパフォーマンスにどのような化学反応を起こし、観客にどのようなドラマを見せてくれるのか、その点に大きな期待が寄せられます。

男子5000m:長距離の頂点を目指す戦い

スタートはスターティングブロックを使用しないスタンディングポジションからの一斉スタートです。号砲とともに選手たちは有利な位置を求めてインレーンへと殺到します。集団に「ボックス」される(囲まれて身動きが取れなくなる)ことを避けるため、序盤の位置取りは非常に重要です 。競技中、フライング、トラック外を走る行為、意図的な他選手への妨害、スポーツマンシップに反する行為は失格の対象となります。

勝敗は、選手の胴体がフィニッシュラインを最初に通過した時点で決定されます。頭や手足が先にラインを越えても、胴体が基準となるため、最後の最後まで気を抜けない戦いが繰り広げられます 。世界陸上選手権では、通常、予選(ヒート)と決勝の2段階で実施され、決勝には15名の選手が進出します 。  

男子5000mの現在の世界記録は、ウガンダのジョシュア・チェプテゲイ選手が2020年8月14日にモナコで樹立した12分35秒36です 。この記録は、長年破られなかったケネニサ・ベケレ選手の記録を更新するもので、陸上界に大きな衝撃を与えました。  

男子5000m 世界記録

記録選手名国名達成年月日大会場所
12分35秒36ジョシュア・チェプテゲイウガンダ2020年8月14日ダイヤモンドリーグモナコ

一方で、世界陸上選手権における男子5000mの大会記録は、エリウド・キプチョゲ選手が2003年に記録した12分52秒79です 。

ジョシュア・チェプテゲイ選手の世界記録とエリウド・キプチョゲ選手の大会記録の間には約17秒の差があります。この記録の差は、単なるタイムの違い以上の意味を持ちます。世界記録は、通常、高速ペースメーカーが設定され、記録更新を最優先とする「記録会」で生まれる傾向があります。選手は純粋に自己の限界に挑戦し、最速タイムを目指す環境が整えられます。  

対照的に、世界陸上のような選手権大会では、メダル獲得が最大の目標となります。選手たちは、ライバルとの駆け引き、位置取り、そしてラストスパートといった「戦術」を重視するため、必ずしも最速タイムが出るとは限りません。この記録のギャップは、選手権大会が「記録」よりも「順位」を重視するレース展開になりやすいという特徴を示しています。

選手たちは、自己ベスト更新よりも、いかにライバルを出し抜き、勝利を掴むかに集中するため、レース中盤のペースが上がりにくく、最後の数周で一気にペースアップする展開が多く見られます。これは、観客にとっては予測不能な展開やラストスパートの激しさを楽しむ要素となります。

東京世界陸上でも、男子5000mは記録更新よりもメダル争いに焦点が当てられる可能性が高いと予想されます。選手たちは、タイムよりも「勝つ」ことにこだわり、観客はその駆け引きや、極限状態での選手たちのスプリント能力に注目することで、レースをより深く楽しめるでしょう。

競技ルールとレース戦略の妙

基本的な競技ルール

男子5000mは、400mトラックを12周半走る競技であり、その距離は5000mに相当します。ロードレースの5kmとは異なり、トラック上で行われる点が特徴です 。選手はスターティングブロックを使用せず、立った状態から一斉にスタートします。号砲と同時に、選手たちは有利な位置を確保するため、インレーンへと自由に移動できます 。  

失格となる主な行為には、フライング(号砲より早くスタートすること)、トラック外を走る行為(レーンを逸脱すること)、意図的な他選手への妨害、そしてスポーツマンシップに反する行為が含まれます 。フライングは稀なケースですが、一度でも犯すと即座に失格となる厳格なルールが適用されます。

勝敗は、選手の胴体がフィニッシュラインを最初に通過した時点で決定されます。頭、手、足などが先にラインを越えても、胴体が基準となるため、選手たちは最後の最後まで身を投げ出すような激しい競り合いを見せます 。  

5000m特有のレース展開と戦術

この種目では、約14分間(エリートレベル)にわたる持続的な走力に加え、高度な戦術が勝敗を左右します 。  

  • ペース配分: レース序盤は、集団内で有利な位置を確保しつつ、オーバーペースを避けて体力を温存することが重要です。中盤に入ると、選手たちは疲労を感じ始めますが、ここで精神的な強さが試されます。そして、最終盤、特にラスト1周では、残りの全エネルギーを使い、一気にペースを上げてスパートをかけます 。  
  • 位置取り: 集団に「ボックス」される(他の選手に囲まれて身動きが取れなくなる)ことを避けるため、常に周囲の状況を把握し、有利な位置をキープする戦術眼が求められます。集団の先頭や外側で走ることで、いつでも動ける自由度を確保する選手もいれば、集団の中で体力を温存し、最後のスパートに賭ける選手もいます 。  
  • ラストスパート: 最終周は最もペースが上がり、選手たちは残りの力を振り絞ってスプリントします。この「キック」のタイミングと持続力が、勝敗を分ける決定的な要素となります。観客は、この最後の攻防に最も興奮を覚えるでしょう 。  

5000mのような長距離種目では、肉体的な強さだけでなく「精神的な強さ」が繰り返し強調されます 。これは、単なる身体能力の高さだけでなく、極限状態での自己コントロール能力が、この種目の勝敗に直結する重要な要素であることを示唆しています。

レース中盤から終盤にかけて疲労がピークに達する苦しい局面で、いかに冷静さを保ち、ポジティブな思考を維持できるかが、肉体的な限界を乗り越え、最後のスパートの余力を生み出す直接的な要因となります。精神的な崩れは、一瞬にしてレースを破綻させる可能性を秘めているため、メンタルはパフォーマンスに直接的な影響を及ぼします。

観戦者は、単に選手の速さやフォームの美しさだけでなく、苦しい表情の中に見せる集中力や、ラストでの粘りといった精神的な側面にも注目することで、レースの深みをより感じられるでしょう。これは、選手たちの人間ドラマや、彼らが自身の限界に挑む姿を追体験する視点にも繋がり、観戦体験を一層豊かなものにします。  

観戦のポイント:どこに注目すればレースがより楽しめるか

  • 集団内の駆け引き: 序盤から中盤にかけての選手たちの位置取りや、ペースの上げ下げに注目すると、レースの戦略性がより深く理解できます。どの選手が前に出てペースを作り、どの選手が集団後方で力を温存しているかを見極めるのが面白いでしょう。
  • ペースメーカーの有無と役割: 世界記録を狙う記録会ではペースメーカーが導入されることがありますが、世界陸上のような選手権大会では、選手同士の駆け引きが中心となります。ペースの変動が激しいほど、戦術的な要素が強まり、観戦の面白さが増します。
  • ラスト数周の攻防: 5000mの醍醐味は、やはり最終盤の激しい順位争いとスパート合戦にあります。特に残り1周の鐘が鳴ってからの選手たちの表情やフォームの変化、そして誰が最初に仕掛けるかに注目すると、興奮が最高潮に達するでしょう。

日本人注目選手の見どころ:世界への挑戦

男子5000m日本記録とその歴史

男子5000mの日本記録は、大迫傑選手が2015年7月17日に樹立した13分08秒40です 。この記録は、長らく破られていない日本のトップタイムとして君臨しており、日本人選手にとっての大きな目標となっています。

日本歴代10傑を見ると、13分15秒台までの選手が名を連ねており、近年も記録が更新され続けていることがわかります 。これは、日本の長距離界のレベルが着実に向上していることを示唆しています。  

男子5000m 日本歴代10傑

順位記録氏名
113分08秒40大迫傑
213分10秒69遠藤日向
313分12秒63鎧坂哲哉
413分13秒20松宮隆行
513分13秒40高岡寿成
613分13秒56伊藤達彦
713分13秒59塩尻和也
813分13秒60佐藤悠基
913分13秒80鈴木芽吹
1013分15秒07森凪也

東京2025世界陸上への道:参加標準記録と選考基準

東京世界陸上2025の男子5000m参加標準記録は13分01秒00と、非常に高い設定となっています 。この記録は、現日本記録(13分08秒40)を大きく上回るものであり、日本人選手にとっては非常に厳しいハードルです。参加標準記録の有効期間は2024年8月1日から2025年8月24日までと定められています 。  

日本代表の選考は、公益財団法人日本陸上競技連盟(JAAF)の選考要項に基づき、主に以下の基準で優先順位が定められます 。  

  1. 参加標準記録を突破し、かつ日本選手権で優勝した選手
  2. 参加標準記録を突破した選手
  3. ワールドアスレティックス(WA)のワールドランキング上位選手

日本陸上競技連盟は、東京世界陸上において「より多くのメダルや入賞を獲得すること」を目標とし、メダル獲得及び8位入賞を目指す競技者で選手団を編成する方針を掲げています 。  

男子5000mの日本記録が大迫傑選手の13分08秒40である一方で 、東京世界陸上2025の男子5000m参加標準記録は13分01秒00と明記されています 。この約7秒の差は、現在の日本記録保持者でさえ、この参加標準記録を突破していないという厳しい現実を突きつけます。これは、日本人選手が世界と戦う上で、記録面で依然として大きな壁に直面していることを明確に示唆しています。

参加標準記録の高さは、日本人選手が自力で出場権を獲得することの難しさを増幅させます。結果として、多くの日本人選手がワールドランキングによる出場枠に頼らざるを得ない状況が生まれる可能性が高まります。このため、国内での記録会だけでなく、海外の高速レースやダイヤモンドリーグのようなハイレベルな国際大会に積極的に参加し、ワールドランキングポイントを稼ぐことが、世界陸上出場への重要な要因となります。

日本人選手が男子5000mで世界トップレベルと伍していくためには、個々の選手の自己記録を大幅に更新し、日本記録そのものを引き上げる必要があります。これは、今後の育成戦略や海外遠征の機会増加など、日本陸上界全体の課題として浮上し、長期的な強化プランが求められることを意味します。  

主要日本人注目選手とその展望

氏名所属生年月日自己ベスト(5000m)主要成績(直近の国際大会など)
佐藤圭汰駒澤大学2004年1月22日13分09秒45 (室内日本記録)2025年アジア選手権 男子5000m 4位 (13分26秒77) 、2025年ダイヤモンドリーグ上海 男子5000m 12位 (13分19秒58)  
森凪也Honda1999年7月3日13分15秒072025年アジア選手権 男子5000m 3位 (13分25秒06) 、2025年金栗記念選抜陸上中長距離大会 男子5000m 1位 (13分15秒07)  
大迫傑Nike Oregon Project1991年10月11日13分08秒40 (日本記録)2024年パリオリンピック男子マラソン 13位 、2025年TRACK FEST 5000m 13分49秒61  
遠藤日向住友電工13分10秒69日本歴代2位  
鈴木芽吹トヨタ自動車2001年6月3日13分13秒80日本歴代9位  
吉岡大翔順天堂大13分22秒99  

佐藤圭汰選手 (駒澤大学)

佐藤圭汰選手は、自己ベスト13分09秒45(2024年1月26日、ジョン・トーマス・テリア・クラシック)を記録しており 、これは日本歴代2位、室内日本記録に相当する驚異的なタイムです 。

最近の主要大会では、2025年アジア選手権男子5000mで4位(13分26秒77) 、2025年ダイヤモンドリーグ上海男子5000mで12位(13分19秒58) の成績を残しています。学生ながら日本トップレベルの記録を持ち、国際大会での経験も積んでいる点が最大の強みです。

特に2024年に自己ベストを大幅に更新した勢いは目覚ましく、今後のさらなる成長が期待されます。世界標準記録(13分01秒00)への挑戦、そして国際レースにおける集団内での位置取りや、ラストスパートの切れ味をさらに強化することが今後の課題となるでしょう。  

森凪也選手 (Honda)

森凪也選手の自己ベストは13分15秒07です 。最近の主要大会では、2025年アジア選手権男子5000mで3位(13分25秒06)となり、大会新記録を樹立しました 。また、2025年金栗記念選抜陸上中長距離大会男子5000mでは1位(13分15秒07) 、2025年ゴールデングランプリ陸上男子3000mでは4位(7分41秒58) の成績を残しています。

安定して好記録を出し、アジア選手権で銅メダルを獲得するなど、国際舞台での実績を積み上げている点が評価されます。粘り強い走りが特徴で、レース巧者としての側面も持ち合わせています。世界陸上での上位進出には、さらに高速ペースへの対応力と、ラストの切れ味向上が求められます。  

大迫傑選手 (Nike Oregon Project)

大迫傑選手は、男子5000mの日本記録保持者であり、その記録は13分08秒40です 。近年はマラソンに主軸を置いており、2024年パリオリンピック男子マラソンでは13位の成績を残しています 。

2025年5月には5000mのレースに出場し、13分49秒61を記録していますが、これはマラソン後のトラックシーズン初戦としての調整レースと見られます 。彼の5000mへの本格的な復帰や、東京世界陸上での出場は現時点では不透明ですが、その豊富な経験と日本記録保持者としての存在感は、日本の長距離界にとって依然として非常に大きいと言えます。  

その他、期待される若手選手や強化指定選手

遠藤日向選手(住友電工)の13分10秒69は日本歴代2位に位置し 、鈴木芽吹選手(トヨタ自動車)も13分13秒80で日本歴代9位に名を連ねています 。吉岡大翔選手(順天堂大)も13分22秒99の記録を持つなど 、日本陸上競技連盟の強化指定選手リストには、これら以外にも多くの有望な選手が名を連ねており 、今後の記録更新や世界陸上への挑戦が期待されます。  

佐藤圭汰選手と森凪也選手の最近の国際大会での成績を見ると、彼らがアジアトップレベルには位置しているものの、世界トップとの間にはまだ一定の差があることがわかります。例えば、佐藤選手の自己ベスト13分09秒45は、世界標準記録13分01秒00に約8秒届いていません。

しかし、彼らはまだ若く、特に佐藤選手は20歳 、森選手も25歳 と、今後の伸びしろが非常に大きい世代です。彼らが国際経験を積み、世界トップレベルのレースに対応できるようになれば、この差は縮まる可能性があります。

参加標準記録の厳しさは、日本人選手が国内のレースだけでなく、海外の高速レースやダイヤモンドリーグのようなハイレベルな大会に積極的に参加し、自己記録を更新していく必要性を高めます。国際経験を積むことが、世界との差を縮めるための直接的な要因となり、彼らのパフォーマンス向上に繋がると考えられます。

東京世界陸上での日本人選手の活躍は、単に個人の成績だけでなく、日本の長距離界全体の国際競争力向上に向けた試金石となります。若手選手の台頭は、将来的な日本記録更新や世界でのメダル獲得への希望を示しており、彼らの成長が日本の陸上界の未来を左右すると言っても過言ではありません。彼らが参加標準記録を突破するか、あるいはワールドランキングで出場権を獲得できるかが、東京世界陸上での日本人選手の活躍を占う上で重要なポイントとなるでしょう。  

東京世界陸上2025 男子5000m 見どころインフォグラフィック

東京世界陸上2025

男子5000m 徹底解剖

2025年9月13日〜21日 | 国立競技場

究極の持久力と戦略:男子5000mとは?

400mトラックを12周半、合計5000mを走り抜く男子5000m。単なるスピードだけでなく、レース展開を読む戦術眼、そしてラストスパートでライバルを振り切る爆発力が試される、長距離種目の華です。

5000
メートル
12.5
<13
分間の激闘

勝利への方程式

序盤: 位置取り
中盤: ペース維持
終盤: 駆け引き
最終周: 全力スパート

世界記録 vs 大会記録

なぜ約17秒もの差が?
記録狙いの高速レースと、勝利優先の戦術的な選手権大会の違いがここに表れます。

日本が挑む「13分01秒」の壁

東京世界陸上の参加標準記録は、現在の日本記録を約7秒も上回る非常に高いハードルです。

参加標準記録

13:01.00

日本記録 (大迫傑)

13:08.40

差: -7.40秒

世界へ挑む日本のトップランナー

日本記録更新、そして世界のファイナリストへ。東京の舞台で輝きを放つことが期待される選手たち。その実力は日本歴代記録を見れば一目瞭然です。

東京への道:代表選考の仕組み

選手たちはどうやって夢の舞台への切符を手にするのか?代表選考は主に3つのルートで、優先順位が定められています。

1

最優先

参加標準記録突破

+

日本選手権優勝

2

優先

参加標準記録突破

3

上記以外

ワールドランキング
上位

東京の地で、歴史が動く瞬間を見逃すな。

まとめ:東京の地で歴史を刻む瞬間へ

東京世界陸上2025は、男子5000mにおいて世界最高峰のスピードと戦略がぶつかり合う、見逃せない大会となるでしょう。ジョシュア・チェプテゲイ選手の世界記録は圧倒的ですが、選手権大会ならではの予測不能なレース展開が期待されます。

日本人選手にとっては、参加標準記録という高い壁があるものの、佐藤圭汰選手や森凪也選手といった若手実力者が着実に成長を遂げています。彼らが世界の大舞台でどこまで通用するのか、日本記録更新や入賞、そしてメダル争いに絡むことができるのか、その挑戦に大きな注目が集まります。

大会が東京で開催されることは、日本人選手にとって大きな地の利となる可能性があります 。慣れた環境、時差のなさ、そして何よりも熱狂的な地元ファンの声援は、選手たちのパフォーマンスを大きく後押しするでしょう。しかし、同時に「ホーム」であることのプレッシャーも増大します。

地元開催ゆえの過度な期待や注目が、選手にとって重圧となり、パフォーマンスに影響を与える可能性も考慮する必要があります。ホームでの開催は、観客動員やメディア露出の増加に繋がり、選手への注目度を高めます。この注目度が、選手のモチベーション向上に繋がる一方で、過度なプレッシャーとなりうるという関係性が存在します。

東京の地で、世界のトップランナーたちが繰り広げる熱戦、そして日本人選手が世界に挑む姿は、きっと多くの人々の記憶に刻まれる歴史的な瞬間となるでしょう。