100m女王シャカーリ・リチャードソン、DV容疑で逮捕 全米選手権を棄権

100m女王シャカーリ・リチャードソン、DV容疑で逮捕 全米選手権を棄権

逮捕の経緯と容疑の内容

2025年7月27日、女子短距離界のスターであるシャカリ・リチャードソン選手(25歳)が、交際相手で男子100m元世界王者のクリスチャン・コールマン選手に対するドメスティックバイオレンス(DV)容疑で米シアトル・タコマ国際空港において逮捕されました。

警察の報告書によれば、空港の保安検査場でリチャードソン選手とコールマン選手が激しい口論となり、リチャードソン選手がコールマン選手を何度も強く突き飛ばす様子が監視カメラに捉えられていたといいます。その後、リチャードソン選手は警官によって現行犯逮捕され、約19時間にわたって拘置所に留置された後、翌日には釈放されました。

コールマン選手は警察に対し2年間交際している恋人同士であると説明し、被害届は提出せず「被害者になることを拒否した」と報告されています。

米国陸上競技連盟(USATF)はこの件について「報道は把握しているがコメントは控える」との声明を出し、現時点で公式な処分などは発表されていません。

全米選手権棄権の背景

逮捕から数日後、オレゴン州ユージーンで世界陸上(東京大会)代表選考会を兼ねた全米陸上選手権(全米選手権)が開幕しました。

リチャードソン選手は7月31日に女子100m予選に出場し、11秒07の好タイムで自身の予選組を2位通過しました。しかし翌8月1日の準決勝はスタート直前になって棄権が発表されます。

この棄権が発表されたタイミングで、実は数日前にDV容疑で逮捕されていたというニュースが明らかになり、大会関係者やファンに衝撃が走りました。

リチャードソン選手が途中棄権した背景には、代表選考上の事情もあります。

彼女は前年の世界選手権100m優勝者、すなわち現世界チャンピオンであるため、今大会(東京世界陸上)の100m出場権を既に自動的に手にしており、全米選手権で成績を残す義務がそもそもありませんでした。同様に男子100mでも前回王者のノア・ライルズ選手が準決勝を棄権しています。

リチャードソン選手の場合、逮捕による精神的影響やメディアの注目の高まりも考慮し、早期棄権という判断に至った可能性も指摘されています(公式には棄権の理由は明らかにされていません)。

世界的スプリンターとしての実績と注目度

シャカーリ・リチャードソン選手は近年めざましい活躍を遂げてきた世界トップクラスのスプリンターです。

2023年8月のブダペスト世界選手権女子100m決勝では大会新記録となる10秒65をマークし、六連覇を狙ったジャマイカのシェリー=アン・フレーザー=プライス選手や同じくジャマイカの有力選手シェリカ・ジャクソン選手を抑えて初の世界金メダルを獲得しました。

この快挙により“一躍100mの女王”として世界にその名を轟かせています。

また、2024年7~8月に開催されたパリ五輪でも女子100mで銀メダルを獲得し、米国リレー代表の一員として4×100mリレーで金メダルにも貢献しました(女子100m銀メダル)。

こうした実績からリチャードソン選手はアメリカ陸上界のエースとして大きな期待を背負い、その派手な髪色やファッション、勝利の度に見せるガッツポーズなどカリスマ性あふれる言動でも注目を集めてきました。

特に2021年には全米オリンピック代表選考会の女子100mで優勝しながら、大麻使用の陽性反応によって東京五輪代表の座を失うという騒動も経験しており、この出来事は世界的な議論を呼び彼女の知名度を一気に高める結果ともなりました。

その後の復帰戦である世界選手権制覇と五輪メダル獲得は、逆境からの劇的なカムバックとして大きな称賛を浴びています。

東京世界陸上2025への影響と今後の見通し

今回のDV容疑による逮捕劇が、目前に迫った2025年東京世界陸上へのリチャードソン選手の出場やパフォーマンスにどのような影響を及ぼすのか、関係者やファンは注視しています。

幸いなことに、前述の通りリチャードソン選手は女子100mのディフェンディングチャンピオン(前回優勝者)であるため、特別枠(ワイルドカード)として東京世界選手権への出場資格が保証されています。したがって、全米選手権を棄権したこと自体は世界大会への出場可否に直接影響しません。

また現時点でUSATFや世界陸連から何らかの追加処分が科されたとの情報もなく、コールマン選手が告訴を望んでいないことから刑事事件として大事に至る可能性も低いと考えられます。このため、リチャードソン選手自身が望めば東京大会の100mトラックに立つことはほぼ確実でしょう。

一方で、競技以外のトラブルによる精神的負担や世間の注目度の高まりが、今後の調整に影響を与える懸念は残ります。東京世界陸上は9月開催と目前に迫っており、リチャードソン選手にとっては短期間で気持ちを立て直し万全の状態で大会に臨めるかが課題となります。

また、肝心の女子100m種目ではリチャードソン選手を脅かす強力なライバルたちが存在します。

全米選手権ではメリッサ・ジェファーソン選手がパリ五輪銅メダリストの意地を見せ、追い風0.4mの条件下で世界歴代5位タイとなる10秒65の好記録をマークして優勝しており、同じ米国代表内でもリチャードソン選手と肩を並べる高速スプリンターが台頭しています。

さらにジャマイカ勢も健在で、前回世界大会でリチャードソン選手に敗れたシェリカ・ジャクソン選手やシェリー=アン・フレーザー=プライス選手をはじめ、世界トップクラスのライバルたちが虎視眈々とタイトルを狙っています。

リチャードソン選手自身、持ち前の爆発的な走力と勝負強さでタイトル防衛に挑む構えですが、今回のトラブルが調整面に影を落とす可能性も否定できません。東京の舞台で再び世界の頂点に立つためには、競技に集中し万全のコンディションで臨むことが求められるでしょう。

全体として、今回の事件に対する報道はセンセーショナルに扱われがちな内容ではありますが、リチャードソン選手の今後を語る上では事実関係の把握と冷静な分析が重要です。

現状では逮捕の事実こそ明らかになったものの起訴には至っておらず、彼女の競技資格にも直ちに影響は出ていません。むしろ東京世界陸上では、今回の経験を乗り越えて競技に集中できるか、そして激戦必至の女子100mで実力を発揮できるかが最大の注目ポイントとなるでしょう。

ファンや陸上関係者は、世界女王となったリチャードソン選手がこの逆境をどう乗り切り、東京の大舞台でどんな走りを見せてくれるのかを静かに見守っています。