【1997年アテネ】世界陸上振り返り – 名勝負とドラマの数々

【1997年アテネ】世界陸上振り返り – 名勝負とドラマの数々

1997年8月、ギリシャのアテネで第6回世界陸上競技選手権大会が開催されましたrikujyokyogi.co.jp。当初はメキシコシティでの開催予定でしたが財政難で変更となり、五輪発祥の地アテネが舞台となった大会です。多くのスーパースターが誕生し、接戦や驚きの勝利が続出したこの大会を、注目のエピソードごとに振り返ります。

注目の記録・成績(ハイライト)

この大会では数多くの好記録と印象的な結果が出ました。男子・女子それぞれの主な結果を挙げると以下の通りです。

  • 男子100m: モーリス・グリーン(USA)が9秒86で優勝。予選で9秒87をマークしたアト・ボルドン(TTO)は当時の世界記録(9秒84)に0.03秒まで迫りました。
  • 男子200m: アト・ボルドン(TTO)が20秒02で優勝(銀:フランキー・フレデリックス)。
  • 男子400m: マイケル・ジョンソン(USA)が44秒12で優勝。予選でトラブルがあったものの決勝で圧勝しました。
  • 男子110mH: アレン・ジョンソン(USA)が12秒93で優勝し、コリン・ジャクソン(GBR)の世界記録(12秒91)に迫りました。
  • 男子800m: ウィルソン・キプケテル(DEN)が1分43秒38で連覇。
  • 男子1500m: ヒシャーム・エルゲルージ(MAR)が3分35秒83で優勝し、王者ヌルディン・モルチェリ(ALG)の5連覇を阻止しました。モルチェリは4位に沈みました。
  • 男子5000m・10000m: ダニエル・コーメン(KEN)が5000mで驚異的なラップを刻み、10000mではハイレ・ゲブレセラシエ(ETH)が最終ラップを55秒87で駆け抜け3連覇を達成しました。
  • 男子3000mSC: ケニア勢が表彰台を独占。ウィルソン・ボイト・キプケテル(KEN)が最後のラップを57秒5で走り、モーゼス・キプタンイ(KEN)の4連覇を阻止しました。
  • 男子マラソン: スペイン勢がワン・ツーフィニッシュ。アベル・アントン(ESP)が2:13:16で金、1995年王者のマルティン・フィス(ESP)が2:13:21で銀に入りました。
  • 男子棒高跳: セルゲイ・ブブカ(UKR)が6m01の世界新記録で6連覇を達成。
  • 男子三段跳: ヨエルビ・ケサダ(CUB)が17m85(キューバ新記録)で優勝。
  • 男子槍投げ: マリウス・コーベルト(RSA)が88m40のアフリカ記録で優勝。
  • 男子七種: トマシュ・ドヴォルザーク(CZE)が8837点(欧州歴代4位)で優勝。
  • 女子100m: マリオン・ジョーンズ(USA)が10秒83で優勝。ウクライナのジャーナ・ピントゥシェヴィッチが僅差の銀メダル。このときピントゥシェヴィッチは優勝したと思い込みトラックを一周してしまう一幕もありました。
  • 女子200m: ピントゥシェヴィッチ(UKR)が22秒32で優勝。ジャマイカのメレーネ・オッティーが銀で、これがオッティー自身にとって大会14個目のメダル(当時女子最多)となりました。
  • 女子400m: キャシー・フリーマン(AUS)が49秒77で優勝。5秒台の後半から怒涛のラストスパートで逆転し、1995年の雪辱を果たしました。
  • 女子4×100mR: アメリカが41秒47で当時の世界記録に迫る好タイムをマークしました。
  • 女子4×400mR: ドイツがグリット・ブロイアーのアンカー48秒69で優勝しました。
  • 女子100mH: ルドミラ・エングクイスト(SWE)が12秒50で優勝。
  • 女子400mH: ネジャ・ビドゥアン(MAR)が52秒97で優勝し、自己ベストかつアフリカ記録をマークしました。
  • 女子800m: アナ・キロト(CUB)が優勝しました。マリア・ムトーラ(MOZ)は準決勝で失格となり決勝進出を逃しました。
  • 女子1500m: カルラ・サクラメント(POR)が4分04秒24で優勝しました。大本命の選手が欠場し波乱のレースとなりました。
  • 女子5000m: ガブリエラ・サボー(ROM)が優勝しました。当時優勝者だったソニア・オサリバン(IRL)は決勝に進めませんでした。
  • 女子10000m: サリー・バルソシオ(KEN)が31分32秒92で優勝し、ケニア女子として史上初の金メダルを獲得しました。
  • 女子マラソン: 鈴木博美(JPN)が2時間29分48秒で優勝(銀:マヌエラ・マシャド(POR))。
  • 女子10km競歩: アンナリータ・シドーティ(ITA)が優勝しました。
  • 女子跳躍・投擲:
    • 女子三段跳:シャルカ・カスパルコバ(CZE)が15m20で優勝し、世界歴代2位の記録をマークしました。
    • 女子円盤投:ベアトリス・ファウムイナ(NZL)が66m82で優勝しました。
    • 女子七種:ザビーネ・ブラウン(GER)が優勝しました。その他、高跳びではハンネ・ハウグランド(NOR)が1m99で優勝、棒高跳ではイギリスのイェル・ダファーが5m80で優勝するなど、各種目で熱戦が続きました。

“鳥人”ブブカ、棒高跳で6連覇の偉業

男子棒高跳ではウクライナのルゲイ・ブブカ6m01 の大会新記録をマークし、初開催の1983年大会から前人未踏の6連覇を達成しました。

33歳となっていたブブカは前年のアトランタ五輪で両アキレス腱を痛めて予選を棄権し、全盛期を過ぎたとも見られていました。しかし世界選手権では無敗を誇る“鳥人”が健在ぶりを発揮し、ライバルたちとの競り合いを制して金メダルを獲得。自身が持つ屋外世界記録6m14(1994年)もこの当時破られておらず、ブブカはまさに伝説の王者として大会を締めくくりました。

男子100mで新星グリーン、女子100mはジョーンズが接戦を制す

短距離種目では世代交代を印象づける結果が生まれました。

男子100mでは、アメリカの新星モーリス・グリーン9秒86 で優勝し、9秒91で2位のドノバン・ベイリー(カナダ)を下しました。ベイリーは1996年アトランタ五輪金メダリスト(当時100m世界記録保持者)でしたが、その王者を破ったグリーンはこの勝利を機に短距離界の主役に躍り出ます。

一方、女子100mは若き新星マリオン・ジョーンズ(米国)が 10秒83 の自己ベストで初優勝を果たしました。ウクライナのザンナ・ピントゥセビッチをわずか0秒02差で抑える写真判定の接戦で、スタジアムは大いに沸きました。

ジョーンズはもともとバスケットボール選手でしたが、1996年に陸上専念を決意しながらケガで五輪代表の夢を絶たれた経緯があり、このアテネでの栄冠が世界大会デビューとなりました。その期待に違わぬ快走で世界に名乗りを上げたジョーンズは、この大会走幅跳で10位にも入賞しており、スプリント界のみならずマルチな才能ぶりを発揮しています。

中距離のドラマ:エル・ゲルージュ、宿敵に雪辱

男子1500mでは、モロッコのヒシャム・エルゲルージが劇的なドラマを演じました。エルゲルージは3分35秒83でゴールし世界選手権初タイトルを獲得。一方、かつてこの種目を席巻したアルジェリアのヌルディン・モルセリは終盤失速し、表彰台にすら上がれない4位に終わりました。モルセリは1991年から世界選手権3連覇、1996年五輪金メダルと中距離界の絶対王者でしたが、アテネでエルゲルージがついにその牙城を崩したのです。

当時22歳のエルゲルージにとって、前年アトランタ五輪決勝でモルセリの足に接触して転倒するという悪夢からの雪辱劇でもありました。「アトランタは人生で最も暗い出来事だった」と語った彼が、歓喜の涙とともに宿敵を打ち破った姿は、この大会屈指の感動的なシーンとなりました。

1万mの激闘:ゲブレセラシエが3連覇、宿敵テラガトを制す

長距離種目では、エチオピアの長距離王者ハイレ・ゲブレセラシエが実力を見せつけました。男子10000m決勝では、ゲブレセラシエが27分24秒58で優勝し、この種目3大会連続の世界チャンピオンに輝きます。レース終盤、ゲブレセラシエは残り550mでスパートをかけて集団を引き離し、ライバルのポール・テラガト(ケニア)も追い上げましたが及ばず、約1秒差でゲブレセラシエが栄冠を手にしました。

テラガトは銀メダル、モロッコのサラ・ヒッスーが銅メダルとなり、1990年代を通じて続いたゲブレセラシエ vs テラガトのライバル対決は、この大会でもファンを熱狂させました。

なお女子10000mではケニアのサリー・バルソシオ(当時18歳)が優勝し、同国女子初の金メダルを獲得しています(日本勢もこの種目で健闘、後述)。

日本勢の快挙:鈴木博美が金、千葉真子が女子トラック初のメダル

日本選手団も地元に明るいニュースを届けました。中でも女子マラソンでは鈴木博美(積水化学)が 2時間29分48秒 で優勝し、世界大会で日本女子に初のマラソン金メダルをもたらしましたrikujyokyogi.co.jp。当日のアテネは酷暑となり、前回五輪金メダリストのファツマ・ロバ(エチオピア)が中間点前で失速し途中棄権する波乱の展開rikujyokyogi.co.jp。鈴木は後半に抜け出し、ポルトガルのマヌエラ・マシャドら強豪を抑えてトップでフィニッシュrikujyokyogi.co.jp。同じく日本の飛瀬貴子も4位に入賞しておりrikujyokyogi.co.jp、女子マラソンで日本勢が1・4位と大健闘しました。

さらにトラック長距離でも歴史的なメダルが生まれます。女子10,000mで千葉真子(旭化成)が 31分41秒93 で3位に入り、銅メダルを獲得しましたrikujyokyogi.co.jp。これは世界陸上の女子トラック種目で日本人初のメダルであり、オリンピックまで含めても1928年アムステルダム五輪800mで人見絹枝が銀メダルを獲得して以来、実に69年ぶりの日本女子トラック種目のメダル快挙となりましたrikujyokyogi.co.jp

アテネ大会の日本勢は金1個・銅1個を獲得、入賞者(8位以内)も5名を数え、世界の舞台で存在感を示した大会となりました。

まとめ – 名勝負ぞろいの大会が残したもの

アテネで開催された1997年世界陸上は、数々の名勝負とドラマが詰まった大会でした。ブブカの前人未到の偉業、新星アスリートたちの台頭、そして日本選手の金メダルに沸いたことなど、その熱戦は今なお語り草です。

五輪発祥の地で繰り広げられた伝説の数々は、世界中の陸上ファンに強烈な印象を残し、次なる世代の活躍への序章ともなりました。当時の興奮を思い起こしつつ、陸上競技の素晴らしさを改めて実感させてくれる大会でした。

また、1997年アテネ大会は、競技成績だけでなく大会の性格や当時の情勢も象徴する出来事が散見されました。まず組織面では、前回大会王者へのワイルドカード制度導入や、「大会日程が長すぎる」「出場人数が多すぎる」といった議論が起こった点が挙げられます。

また、リレー競技の波乱劇のほか、ここで生まれたドラマは五輪招致にも追い風となり、ギリシャは高い運営能力を世界に示しました。社会的には、世界陸上の舞台で男子4×400mリレーのように後日失格処分が下るドーピング問題が浮き彫りになるなど、競技におけるフェアプレーの重要性も改めて示される大会となりました。