
陸上競技ファンなら「ダイヤモンドリーグ」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
ダイヤモンドリーグとは、世界各地で開催される陸上トラック&フィールドの最高峰シリーズ戦です。毎年5月から9月にかけてヨーロッパ・北米・アジアの主要都市を転戦し、各大会で上位入賞すると賞金とポイントが与えられ、年間チャンピオンを競います。
今回はダイヤモンドリーグ2025の概要をわかりやすくご紹介するとともに、2025年シーズンの日程・開催地、注目の種目や世界のトップ選手たち、さらに東京で開催される世界陸上選手権(東京世界陸上2025)との関係性についても解説したいと思います。
ダイヤモンドリーグとは?
ダイヤモンドリーグ(Diamond League)は、ワールドアスレティックス(世界陸連、旧IAAF)が主催する国際陸上競技シリーズです。かつて行われていたゴールデンリーグを発展させる形で2010年に創設されました。毎年シーズン中(概ね5〜9月)に世界各地で約14〜15戦の大会が開催され、各大会ごとに男子・女子の主要種目が実施されます。
各種目で8位以内に入賞した選手には賞金が授与され、同時に順位に応じたポイントが与えられます。このポイントを年間を通じて競い、シーズン終盤にはポイント上位の選手だけが出場できるファイナル(年間王者決定戦)が行われます。
ファイナルで各種目の優勝者となった選手がその年のダイヤモンドリーグチャンピオンとなり、トロフィー(ダイヤモンドをあしらった優勝トロフィー)と高額賞金が贈られます。
つまりダイヤモンドリーグは、言わば「陸上の年間リーグ戦」であり、オリンピックや世界選手権と並ぶトップアスリートの真剣勝負の場です。短距離から長距離、ハードル、跳躍、投擲まで、陸上の主要種目が網羅され、世界記録級のパフォーマンスが生まれることもしばしばあります。
観客にとっても、シーズン中定期的に世界トップレベルの戦いを観戦できるワクワクするシリーズなのです。
2025年ダイヤモンドリーグの日程・開催地
2025年のダイヤモンドリーグ日程は全15大会で構成され、4月下旬から8月末まで世界各地で開催されます。
開幕戦は4月26日に中国・廈門(アモイ)で行われ、その翌週の5月3日には同じく中国の蘇州大会と、中国での2連戦で幕を開けました。
続いて5月16日にドーハ(カタール)、5月25日にラバト(モロッコ)と中東・アフリカに舞台を移し、初夏からはヨーロッパ各地での開催が中心となります。例えば6月6日ローマ(イタリア)、6月12日オスロ(ノルウェー)、6月15日ストックホルム(スウェーデン)、6月20日パリ(フランス)といった伝統ある大会が名を連ねています。
夏場の7月5日にはアメリカ・ユージーン(オレゴン州)でも開催され、さらに7月11日モナコ、7月19日ロンドン(英国)と続きます。シーズン終盤の8月16日にはシレジア(ポーランド)、8月20日ローザンヌ(スイス)、8月22日ブリュッセル(ベルギー)と大会を重ね、そして8月27〜28日にスイス・チューリヒでファイナル(年間最終戦)が開催される予定です。
各大会ごとに実施される種目は多少異なりますが、男女それぞれ100m、200m、400m、800m、1500m、5000m、3000m障害、110mH/100mH、400mH、走高跳(高跳び)、棒高跳、走幅跳(走り幅跳び)、三段跳、砲丸投、円盤投、やり投など主要種目が組み込まれています。大会によっては普段あまり見られない種目(例えば300mハードルや1マイル走など)が実施されることもあり、ファンを楽しませています。
なお2025年シーズンのファイナル(チューリヒ大会)は例年より少し早い8月末に設定されています。これは後述する東京世界陸上2025(9月開催)との兼ね合いによるもので、世界陸連(WA)の意向により「主要大会スケジュールの最後を世界選手権とする」ため、2025年からダイヤモンドリーグの最終戦が世界選手権開幕前に前倒しされた経緯があります。
そのため例年は9月に開催されていたファイナルが、2025年は8月27〜28日のチューリヒとなっているのです。
開催回 | 日付(現地) | 開催都市 / 国 |
---|---|---|
1 | 4 月 26 日(土) | 厦門/中国 |
2 | 5 月 3 日(土) | 上海・柯橋/中国 |
3 | 5 月 16 日(金) | ドーハ/カタール |
4 | 5 月 25 日(日) | ラバト/モロッコ |
5 | 6 月 6 日(金) | ローマ/イタリア |
6 | 6 月 12 日(木) | オスロ/ノルウェー |
7 | 6 月 15 日(日) | ストックホルム/スウェーデン |
8 | 6 月 20 日(金) | パリ/フランス |
9 | 7 月 5 日(土) | ユージーン/米国 |
10 | 7 月 11 日(金) | モナコ |
11 | 7 月 19 日(土) | ロンドン/英国 |
12 | 8 月 16 日(土) | シレジア(ホジュフ)/ポーランド |
13 | 8 月 20 日(水) | ローザンヌ/スイス |
14 | 8 月 22 日(金) | ブリュッセル/ベルギー |
15 | 8 月 27–28 日(水–木) | チューリッヒ/スイス |
2025年注目の種目・選手(世界のトップアスリート)
2025年のダイヤモンドリーグでは、各種目で世界トップクラスの注目選手たちが続々と登場し、ハイレベルな記録や熱戦を繰り広げています。ここでは特に注目度の高い種目とスター選手をいくつかご紹介しましょう。
男子短距離(100m・200m)
スプリント界の花形種目は2025年も大注目。男子100mでは五輪王者ノア・ライルズ(米国)と新星レツィレ・テボゴ(ボツワナ)の対決が話題を呼びました。7月のロンドン大会ではライルズがシーズン初の100mに参戦したものの、伏兵オブリーク・セビル(ジャマイカ)が9秒86の快走で番狂わせ。
200mではライルズが本領を発揮し、セビルやテボゴ、地元ザーネル・ヒューズ(英国)らと高速バトルを繰り広げています。今年も9秒台連発のハイレベルな争いが続き、「人類最速」の座を巡る熱戦から目が離せません。
男子400mハードル
世界記録保持者カルステン・ワーホルム(ノルウェー)が牽引。4月の厦門開幕戦では300mHに挑戦し、33.05秒の世界新記録を樹立する離れ業を披露。本職の400mHでも圧倒的な強さを維持し、ライ・ベンジャミン(米国)やアリソン・ドスサントス(ブラジル)との直接対決がシーズン後半の見どころです。
世界記録(45.94秒)の更新にも引き続き注目が集まります。
女子中距離(1500m)
ケニアの女王フェイス・キピエゴンが圧巻の走り。7月ユージーン大会で自身の世界記録をさらに更新し、3分48秒68の驚異的タイムをマークしました。前年の自己記録を0.36秒更新する快挙で観客を魅了。
東京世界陸上2025でも金メダル最有力と目されています。
女子短距離(100m・200m)
ジャマイカ勢と米国勢が火花を散らす女子スプリント。100mではシェリー=アン・フレーザー=プライス(ジャマイカ)、シェリカ・ジャクソン(ジャマイカ)、シャカーリ・リチャードソン(米国)がトップ争い。
200mはジャクソンが歴代2位の実力でリードする一方、セントルシアの若手ジュリエン・アルフレッドが各大会で優勝を重ね台頭。ストックホルム大会での11秒00優勝など、新勢力の躍進にも注目です。
男子棒高跳
アルマンド・デュプランティス(スウェーデン)が依然として主役。6月ストックホルム大会で6m28を一発クリアし、屋外世界記録を更新。これが通算12度目の世界新で「6m30突破も遠くない」とコメント。
ダイヤモンドリーグでは毎戦6m超えが当たり前で、世界記録挑戦の瞬間は会場が静まり返り、成功した瞬間に大歓声が巻き起こります。
女子400mハードル
オランダのフェムケ・ボルが快進撃。ロンドン大会まで4戦連続優勝し、悪天候のレースでも52秒10の圧勝。ライバルのシドニー・マクローフリン=レヴロニ(米国)が400mフラット中心の今季、両者の直接対決が実現すれば大注目です。
上記の他にも注目種目は数多くあります。
女子三段跳では世界記録保持者のユリマール・ロハス(ベネズエラ)が安定して高成績を残していますし、男子走幅跳では東京五輪金メダリストのミルティアディス・テントグロウ(ギリシャ)や新鋭のジェリ・エヘリアらがハイレベルな争いを展開中です。
長距離種目では7月ユージーン大会でベアトリス・チェベット(ケニア)が女子5000mで13分58秒06の世界新記録を叩き出すなど、記録ラッシュも続いています。
ダイヤモンドリーグ2025はまさに世界の陸上シーンの縮図であり、シーズンを通して「今年は誰が強いのか」「どんな新記録が出るのか」といった話題に事欠きません。
日本人選手の活躍と注目ポイント
ダイヤモンドリーグ2025には日本人選手も多数参加しており、世界を相手に健闘を見せています。特に注目なのが、男子110mハードルの村竹ラシッド選手と男子3000m障害の三浦龍司選手です。
村竹ラシッド選手は4月の開幕戦アモイ大会で村竹選手は13秒14の自己新記録で2位に入り、この時点で東京2025世界陸上の参加標準記録(13秒27)を突破して日本代表内定を勝ち取りました。
同じ大会で三浦選手も8分10秒11の好タイムをマークし、見事に世界陸上参加標準記録(8分15秒00)を突破して3大会連続となる世界陸上代表の座を手にしています。ダイヤモンドリーグのハイレベルな舞台で記録を出したことが、世界大会への切符獲得につながる嬉しいニュースとなりました。
女子やり投の北口榛花選手も見逃せません。北口選手は2022年世界選手権優勝者であり、ダイヤモンドリーグでも2年連続で年間チャンピオンに輝くなど世界トップクラスの実績を持っています。2025年も引き続きダイヤモンドリーグ各大会に参戦し、世界の強豪相手に安定した成績を収めています。特に5月の蘇州大会、6月のオスロ大会、8月のローザンヌ大会などで実施された女子やり投では、常に上位争いに絡む活躍を見せています。
北口選手は東京世界陸上2025でもメダルが期待される存在であり、ダイヤモンドリーグで磨いた勝負強さを世界の大舞台で発揮してくれることでしょう。
男子短距離ではサニブラウン・ハキーム選手もダイヤモンドリーグに積極的に参戦しています。序盤戦の中国大会などではシーズン初戦ということもあり苦戦もありましたが、世界の9秒台スプリンターたちと肩を並べてレースを経験すること自体が大きな財産です。サニブラウン選手が再び自己記録に迫る走りを見せれば、大会会場は大いに盛り上がるでしょう。
また男子走幅跳では橋岡優輝選手、男子やり投では小椋健史選手など、日本のトップ選手がダイヤモンドリーグで世界に挑んでいます。各選手のパフォーマンスは東京世界陸上へ向けた試金石ともなっており、日本勢の躍進にも期待が高まります。
東京世界陸上2025との関係:シーズン最後の大一番
東京世界陸上2025(2025年世界陸上競技選手権大会)は、2025年9月13日から9月21日にかけて東京の国立競技場で開催される陸上競技の世界選手権大会です。世界中から約200の国と地域、2000人以上のトップアスリートが集い、49種目で世界一を決める大舞台となります。
ダイヤモンドリーグで活躍するスター選手たちも各国代表として多数出場し、シーズン最後の「大一番」として金メダルを懸けた戦いを繰り広げます。
前述の通り、2025年シーズンはダイヤモンドリーグのファイナルが世界選手権(東京世界陸上)の直前に行われる特別な年です。
世界陸連は世界選手権を年間スケジュールの最終目標と位置付ける方針を示しており、各選手にとってもダイヤモンドリーグで年間王者を狙う戦いと並行して、9月の世界陸上にピークを持っていく調整が求められます。言い換えれば、ダイヤモンドリーグは世界選手権へ向けた「シーズン戦」であり、東京世界陸上2025はその集大成としての「決勝戦」とも言える位置づけです。
実際、ダイヤモンドリーグでシーズン中好成績を残した選手は世界選手権でも活躍が期待されます。例えば男子短距離のノア・ライルズ選手(米国)は2023年世界選手権で3冠を達成した実力者で、2025年もダイヤモンドリーグで健在ぶりを示しています。東京世界陸上でも100m・200mで優勝候補の一人でしょう。
同様に、フェイス・キピエゴン選手(ケニア)はダイヤモンドリーグで何度も世界新記録を樹立する圧倒的強さを見せており、世界選手権でもライバルたちを寄せ付けない走りが期待されます。棒高跳のデュプランティス選手(スウェーデン)も東京大会で3連覇がかかる大本命です。ダイヤモンドリーグで6m超えを連発する彼が、世界選手権でも記録的ジャンプを見せてくれるか注目です。
また、ダイヤモンドリーグで年間チャンピオンになった選手には、翌年の世界選手権出場権が与えられる仕組み(ワイルドカード)もあります。2024年のダイヤモンドリーグ王者は自動的に東京世界陸上2025に招待されるため、各国の代表枠とは別枠で出場する選手もいるかもしれません。
このようにダイヤモンドリーグと世界選手権は密接にリンクしており、シーズンを通じたストーリーがクライマックスする場が東京世界陸上なのです。
東京世界陸上2025は、日本で開催される久々の世界大会ということもあり、国内の関心も非常に高まっています。ダイヤモンドリーグで腕を磨いてきた日本代表選手たちが地元・東京の大観衆の前でどんな活躍を見せてくれるのか、大いに期待しましょう。ダイヤモンドリーグ2025で培われた世界のトップレベルの争いが、9月の国立競技場で最高潮に達する――。ファンにとってはシーズンを通して陸上競技から目が離せない一年となりそうです。