【2025年ダイヤモンドリーグ】上海大会(5月3日)で世界トップ選手が続々と好記録

【2025年ダイヤモンドリーグ】上海大会(5月3日)で世界トップ選手が続々と好記録

2025年5月3日、中国・上海近郊の浙江省紹興市柯橋でダイヤモンドリーグ第2戦(上海大会)が開催されました。世界各国のトップ陸上選手が集結したこの大会では、複数の競技で世界トップレベルの記録や大会新記録が生まれ、大いに盛り上がりました。

棒高跳びのモンド・デュプランティス、400mハードルのカールステン・ウォーホルム、走高跳びのヤロスラワ・マフチフといった世界記録保持者たちがそろって優勝を飾り、男子110mハードルでは米国の新星コーデル・ティンチ選手が世界最高記録(WL)・大会新記録となる驚異的なタイムを叩き出すなど、各種目でビッグパフォーマンスが相次ぎました。以下、記録的な活躍を見せた主な種目・選手を中心に振り返ります。

ハードル種目で生まれた驚異的記録

男子110mハードル:コーデル・ティンチが衝撃の快記録

男子110mハードルでは、新鋭コーデル・ティンチ選手(米国)が12秒87(+0.6m/s)という圧巻のタイムで優勝しました。この記録は自身の従来の自己ベストを大幅に更新し、一気に世界歴代4位タイまでランクを引き上げる衝撃的なものとなりました。まだシーズン序盤にもかかわらず、ティンチ選手は世界最高記録(WL)および大会記録を樹立し、一躍注目の存在となっています。

2位には村竹ラシッド選手(日本、JAL所属)が13秒10の好タイムで続きました。村竹選手は前年の世界選手権5位入賞者で、先週の開幕戦(厦門)に続いて2戦連続の2位表彰台となりました。

レース後、「今日は12秒台(12秒台=12秒00〜12秒99)が出ると思って臨んだので、悔しい」と語る通り、世界トップレベルの争いに食い込みながらも僅差でティンチ選手に及ばず悔しさを滲ませました。それでも、日本歴代記録(13秒06)に迫る13秒10は自身3番目の記録であり、地元開催の東京世界選手権への代表内定も早々に手中にしています。

男子400mハードル:ウォーホルムが貫禄の走り

同じハードル種目の男子400mハードルでも、世界記録保持者で東京五輪金メダリストのカールステン・ウォーホルム選手(ノルウェー)が貫禄を見せました。ウォーホルム選手は47秒28の今年世界最高タイムで圧勝し、2位以下を大きく引き離しています。

レース中盤にハードルに接触するミスもあり「自分にとっては雑なレースだった」と振り返りましたが、それでも47秒台前半というタイムに「ミスがあっても47秒28が出せたのは収穫だ」と手応えを語りました。世界記録(45秒94)保持者が万全ではない中でこの記録を出したことで、「まだまだタイムを縮められる余地がある」とウォーホルム選手自身も感じているようです。

東京世界陸上に向け、今後さらに調子を上げてくれば、自身の持つ世界記録更新も視野に入ってきます。

女子100mハードル:若手グレース・スタークが大会新記録

また女子100mハードルでは、アメリカの若手グレース・スターク選手が12秒42(+0.3m/s)の大会新記録で優勝し、この種目の世界トップクラスの実力をアピールしました。スターク選手は昨年まで大学で活躍していた新星で、この日は2015年世界王者のダニエル・ウィリアムズ(ジャマイカ)を2位(12秒55)に抑え、自己記録を更新する快走を見せました。

さらに、世界記録保持者のトビ・アムサン(ナイジェリア)も出場していましたが、この激戦で4位(12秒66)に沈んでおり、スターク選手の台頭が際立つ結果となりました。12秒42というタイムは今季世界最高レベルであるだけでなく、将来的に世界選手権のメダル争いに加わる可能性を十分に示すものです。

短距離スプリントの白熱した戦い

男子100m:大接戦を制したのはアカニ・シンビネ

男子100mは、百分の一秒差まで競り合う大接戦となりました。

優勝したのはアカニ・シンビネ選手(南アフリカ)で、タイムは9秒98(+0.5m/s)でした。シンビネ選手は東京五輪や世界選手権でも入賞経験を持つアフリカ屈指のスプリンターで、今季も好調を維持しています。「スタートに課題が残るレースだったが、勝利できたことは良いことだ」と本人はレースを振り返りました。

わずか0.01秒差の9秒99で2位に入ったのはジャマイカの新鋭キシャニー・トンプソン選手。さらに3位にはレツィレ・テボゴ選手(ボツワナ)が10秒03で続きました。テボゴ選手は昨年の世界選手権100mで銀メダルを獲得した19歳のホープで、この日はシーズン初戦ながら安定した走りを見せています。

上位3人がほぼ横一線でゴールするハイレベルな争いに、4位エマニュエル・エセメ(カメルーン、10秒07)や5位クリスチャン・コールマン(米国、10秒13)といった実力者も加わり、複数選手が10秒前後の記録をマークする高速レースとなりました。シーズン序盤から繰り広げられた接戦は、今後の男子短距離界の混戦模様を予感させるものです。

女子200m:アナビア・バトルがダイヤモンドリーグ2連勝

一方、女子200mでは、アメリカのアナビア・バトル選手が22秒38(+0.5m/s)で優勝し、ダイヤモンドリーグ2連勝と好調をアピールしました。2位にはアイルランド期待の21歳、ラシダット・アデレケ選手が22秒72で入りました。

バトル選手は「自分としてベストの走りとは言えないが、5月としては良い状態」とレースを自己分析しつつ、シーズンを通じて調子を上げていく考えを示しています。この種目では今季、ジャマイカ勢や各国の有力スプリンターとの対戦も控えており、東京世界陸上に向けて熾烈なランキング争いが続きそうです。

フィールド種目でも世界の実力者が圧巻

男子棒高跳び:モンド・デュプランティスが別格の強さ

フィールド種目では、世界記録保持者たちが貫禄の強さを見せました。

男子棒高跳びでは、世界記録(6m23)の保持者アルマンド・デュプランティス選手(スウェーデン)がシーズン序盤から他を圧倒しました。デュプランティス選手はこの日、まず6m11を一発でクリアして自身の大会記録を更新し、その後世界記録となる6m28に挑戦しました。6m28には惜しくも成功しませんでしたが、2位に入ったエマヌオル・カラリス選手(ギリシャ)が大躍進の自己新6m01をマークする中、6m11を一発で決めたデュプランティス選手の実力は別格でした。

「この日の跳躍や助走の感触は完璧ではなかったが、それでも世界記録に迫る試技ができたのは良い兆候だ。東京に向けてもう1か月練習に専念し、万全のシーズンにしたい」と本人もコメントしており、9月の世界選手権(東京)に照準を合わせてさらなる高みを目指す考えです。

女子走高跳び:ヤロスラワ・マフチフが2m00で優勝

女子走高跳びでは、東京五輪金メダリストで世界王者のヤロスラワ・マフチフ選手(ウクライナ)が貫禄を示しました。マフチフ選手はこの試合で2m00を一発クリアし優勝、2位以下に実力の差を見せつけています。2位は東京五輪銀メダリストのニコラ・オリスラガース(旧姓マクダーモット、オーストラリア)が1m98、3位はエレノア・パターソン(オーストラリア)が1m95と、世界トップクラスの顔ぶれが上位を占めました。

マフチフ選手は「今日は2メートルを初試技で跳べたし、自分のパフォーマンスに満足している」と語り、5月時点で早くもピークに近い跳躍を見せています。今年7月には自身が37年ぶりの世界新記録(2m10)を樹立しており、東京世界陸上でもさらなる記録更新に挑む可能性があります。

投てき種目:砲丸投げ・やり投げ・円盤投げのトップ選手たち

投てき種目では女子砲丸投げが白熱しました。

昨年の世界チャンピオンであるチェイス・ジャクソン選手(旧姓イーリー、米国)が、20m54の大会新記録をマークして優勝しました。ジャクソン選手は初投てきで20m49を投じてトップに立つと、4投目に自己ベストに迫る20m54を記録しリードを広げました。2位は欧州王者のジェシカ・スヒルダー(オランダ)が19m77、3位にはファニー・ロース(スウェーデン)が自己新記録となる19m66のスウェーデン新記録で入りました。

近年の女子砲丸界は、ジャクソン選手、スヒルダー選手、サラ・ミットン(カナダ)など実力伯仲の選手が競い合っており、「女子砲丸投げが今もっともエキサイティングで競争の激しい種目の一つ」と評されるほど盛り上がっています。東京世界陸上でも20m超えの勝負が展開される可能性が高く、この種目から目が離せません。

また、女子やり投げにはパリ五輪金メダリストで世界選手権王者の北口榛花選手(日本)が登場し、シーズン初戦に臨みました。結果は60m88で4位となり表彰台は逃しましたが、新たに工夫を凝らした助走フォームを試すチャレンジの場ともなりました。序盤2投は思うように記録が伸びず苦戦したものの、後がない3投目で60m台に乗せ意地を見せています。

「感覚自体は悪くなかったので、1本も真っ直ぐ投げられなかったのが悔しい。でもこれで60m飛ぶなら、しっかりハマればもっと飛ぶはず」と前向きに捉えており、9月の東京世界陸上に向けて調整を進めていく構えです。

一方、優勝したのは21歳の欧州新鋭エリナ・ゼントコ選手(ギリシャ)で、64m90の今季自己ベストをマークしました。地元中国の戴千千(ダイ・チェンチェン)選手も自己新記録64m38を投げて2位に入り、中国勢として今季世界ランキング上位に食い込む活躍を見せています。

北口選手にとっては強力な海外勢との対戦となりましたが、「今日自分より遠くに投げた選手とはまた次の試合で当たる。世界選手権と同じ会場(国立競技場)でしっかり感覚をつかみたい」と次戦に向け意欲を語っており、ホームで迎える世界一決定戦へ着実に歩みを進めています。

最後に女子円盤投げにも触れておくと、この種目はダイヤモンドリーグのポイント対象外ながら大会のハイライトの一つとなりました。東京五輪金メダリストのヴァラリー・オールマン選手(米国)が70m08という大投てきを見せて優勝し、2大会連続となるシーズン70m超えを達成しました。70mの大台は女子円盤では一流選手の証であり、オールマン選手は5月の段階で早くもその水準に到達しています。

2位にはオランダの新星ヤリンド・ファンカリンクが66m22(今季自己最高)で続きました。オールマン選手は「中国を後にして帰国する今、とてもハッピーな気持ち。世界大会に向けてこの数ヶ月で何をすべきか、良い展望が開けたわ」とコメントしており、東京世界陸上での連覇に向け順調な仕上がりを示しました。

中距離・長距離種目でのハイペースな戦い

女子800m:ツィゲ・ドゥグマがエチオピア新記録を樹立

中距離種目では、女子800mで驚異的な好記録が生まれました。

エチオピアのツィゲ・ドゥグマ選手が1分56秒64という高速タイムで優勝し、この記録はエチオピア新記録かつ大会新記録、そして今季世界最高となりました。ドゥグマ選手は東京五輪800m銀メダリストでもあり、終盤の最後の100mで他選手を突き放す圧巻の走りを見せています。2位にはオーストラリアのサラ・ビリングズ選手が1分57秒83の大幅自己ベストで入り、3位もウガンダのハリマ・ナカイ(1分58秒39)と、この種目のトップ選手たちが次々と1分台後半のタイムを記録しました。

1分56秒台というタイムは、世界大会でもメダルに絡む水準の記録です。「800mは欧米勢が強い」という従来のイメージに対し、アフリカ勢として新たに台頭してきたドゥグマ選手の存在は、大会本番に向けて大きな注目ポイントとなるでしょう。

男子5000m:3選手が13分を切る高速レース

長距離種目では男子5000mがハイペースの展開となりました。エチオピアのベリフ・アレガウィ選手が12分50秒45の大会新記録で優勝し、同じエチオピアのクマ・ギルマ選手も僅差の12分50秒69という自己新記録で2位に入りました。

アレガウィ選手は東京五輪10000m銀メダリストという実績を持ち、この日の5000mでも序盤から果敢に飛ばして最後は僅差で逃げ切りました。3位のメズゲブ・シメ(エチオピア)も12分51秒86の自己ベストを出しており、上位3人が13分を大きく切るという近年まれに見る高速レースとなっています。

12分50秒台は、参考までに5000mの世界記録(ヨシュア・チェプテゲイ選手の12分35秒36)に迫る水準であり、5月としては異例の速さです。ペースメーカーの助けもないレース本番で3人もの選手がこれだけのタイムを出したことは、今年の長距離界のレベルの高さを物語っています。

同種目で日本から唯一出場した佐藤圭汰選手(日本/駒澤大)は13分19秒58で12位でしたが、世界のハイペースを肌で感じる貴重な経験となりました。

男子3000m障害:トップ選手の不在も好記録

このほか男子3000m障害では、エチオピアのアブラハム・シメ選手が8分07秒92で優勝し、ケニアのエドモンド・セレム選手が8分08秒68で続きました。この種目では東京五輪金メダリストのスーフィアン・エルバカル(モロッコ)や世界記録保持者のラメチャ・ギルマ(エチオピア)は不在でしたが、8分一桁台のタイムはシーズン序盤として上々で、今後彼らトップ選手が合流すれば一層レベルの高い争いになることが予想されます。

東京世界陸上(2025年)へ向けた展望

5月上旬の段階で繰り広げられた一連の好記録・熱戦は、同年9月に控える2025年世界陸上競技選手権大会(東京大会)への大きな期待を抱かせるものでした。各種目で世界トップ選手たちが順調な仕上がりを見せ、新たなスターも台頭しています。

ハードル・跳躍種目の注目対決

特にハードルと跳躍では“世界記録保持者vs新星”という構図が鮮明になってきました。

男子110mハードルでは、世界記録保持者のグラント・ホロウェイ選手(米国)が現在調整中ですが、その間隙を縫って頭角を現したコーデル・ティンチ選手が12秒台前半という歴史的快記録で名乗りを上げました。ホロウェイ選手や昨年の覇者ハンスル・パーチメント選手(ジャマイカ)らが東京で直接対決する際、ティンチ選手がどこまで食い込むのか大きな見どころです。

また男子400mハードルは、今回世界最高をマークしたウォーホルム選手に対し、昨年世界王者のアリソン・ドスサントス選手(ブラジル)や米国のライ・ベンジャミン選手といった強豪が東京で一堂に会します。ウォーホルム選手自身「オスロ大会で彼らと初対決する」と言及していますが、東京の決勝はまさに3強激突の場となるでしょう。

フィールド種目では、棒高跳びのデュプランティス選手と走高跳びのマフチフ選手という現役世界記録保持者が、それぞれ東京大会でも金メダル最有力です。デュプランティス選手は「東京に向けて万全のシーズンを作る」と語り、世界記録更新への意欲を示しています。

マフチフ選手も今季すでに2m10の世界新を樹立しており、37年ぶりに更新した記録をさらに塗り替えるか注目されます。女子砲丸投げ・円盤投げ・やり投げといった投てき種目でも、オールマン選手やジャクソン選手など東京五輪金メダリストたちが健在で、各種目の世界記録に迫るレベルの争いが期待されます。

短距離種目の覇権争いと日本勢の期待

短距離では、男子100mの覇権争いが混沌としています。今回優勝のシンビネ選手や台頭著しいテボゴ選手に加え、アメリカ勢からは世界王者ノア・ライルズ選手(※200mとの二冠を狙う可能性あり)やフレッド・カーリー選手(東京五輪銀メダリスト)などが控えています。ジャマイカもオブリーク・セビル選手ら若手が伸びており、誰が東京で10秒の壁を破って栄冠を掴むか予測が難しい状況です。

女子短距離でも、ジャマイカのシェリー=アン・フレーザー=プライス選手やシャリーカ・ジャクソン選手、アメリカのシャカリー・リチャードソン選手といったスターがひしめく中で、今回200mを連勝したバトル選手や躍進中のアデレケ選手がどこまで迫れるか注目です。

日本勢にとっては、地元開催の強みを活かしてメダル獲得を狙うところです。

男子110mハードルの村竹ラシッド選手は安定して13秒1前後を出せる実力を身につけており、悲願の13秒切り(日本記録更新)と世界大会での表彰台を視界に捉えています。女子やり投げの北口榛花選手は、五輪・世界選手権女王として迎える大舞台で地元の声援を背に連覇を狙います。調整が順調に進めば、昨年マークしたアジア記録(67m98)の更新と70m超えも期待できるでしょう。

さらに、長距離では男子マラソンや競歩などの種目で日本選手団がメダルに絡む可能性があり、総合力が問われます。

今年のダイヤモンドリーグは序盤から世界トップクラスのパフォーマンスが続出し、各種目で東京世界陸上へのストーリーラインが形作られつつあります。9月の東京大会本番では、ここで紹介した注目選手たちが再び集結し、記録とタイトルを巡って熾烈な戦いを繰り広げることでしょう。その時、日本の観衆の前で新たな伝説や世界新記録が生まれる可能性も十分にあります。

今年最大の陸上競技の祭典に向け、期待は高まるばかりです。世界中のファンが見守る中、選手たちがどんなドラマを創り出すのか、今から待ち遠しいですね。